日本人が忘れたもの

信じる事からはじまる事はある

その頃の私は、仕事が終わりしだいアパートへ帰り、シャワーを浴び、食事をし、オシャレをして、ダリアに気に入られる事なら何でもしようと自分の気持ちを伝えて見ましたが、敵もなかなか、落ちてはくれませんので、そこで、ダリアの性格を分析することからはじめる事にしたところ気がついたのが、ダリアは負けず嫌いであると言う点でした。

そこで私は、他のPパブの女の子と一緒に、ダリアの店の子がアフターでよく使うステーキレストランへ行き、あえて判るようにダリアの店の子が居るテーブル近くに席を取り、ラブラブ状態を見せ付けてダリアの耳に届く事を計算の上で演技をしました。
ひとつの賭けではありましたが、ステーキレストランを出てアパートに帰ると、5分もしないうちにダリアからの電話がありました。(私は心の中で薄笑いを浮かべ、シメシメ、はまったなと・・・)が、しかし、この事でのちのち、人生最大の大変な事が起きるとは思いもしない私でした。

そんな事があってからはダリアは私だけを愛する女性に変身し、店のチェックもない事もあり私が休みになると、毎回、タレントのアパートでのデートをする始末で、同伴などで他のタレント達がアパートに居ない時などは、自然な成り行きで、愛し合う二人になっていくのでした。

そして、風のように5月も終わりに近くなった頃、ひとつの事件が起こるのです。

私がダリアを嫁にするつもりが有ったからなのですが、二人の愛し合いには自然に任せて居た為に妊娠してしまうのです。

それは、ダリアの電話からはじまるのです。「今日仕事が終わったらアパートに来て!」と・・・「大切な話があるから」と・・・勿論、仕事が終わり次第、飛ぶようにダリアの元へ。それは夏も過ぎ、まるで夏の恋が終焉を迎えるような、9月の太陽が西に傾きかけたマンションの屋上
「今日はどうしたの?」と私。するとしばらくの沈黙の後、ダリアの大きな瞳から、止めどなく溢れる涙・・・

何も話す事無く15~6分の時間が過ぎようとした時、私は居た堪れなくなり、「何があったの?泣いてるだけでは分からないよ!」と云うと、そこでダリアは少し怯えながら重い口を開け「ごめんね、もう2ヶ月も生理が来ないの!」「私、どうしたらいいか分からない」と云うと、無言で涙、涙、涙・・・・・

私は、即答で「心配しないでいいよ!結婚しよう」「お父さんになる!」というと、少しは安心したのか、先程まで泣きじゃっくていた瞳から涙は消え、口元がかすかに微笑むのが垣間見えたのです。
その微笑がどういう意味なのかは、その時点では私は本当のところ良く理解していませんでした。
それどころか、彼女も結婚を望んでいて私の言葉に安心と喜びに微笑んでくれたのかと思いました。

そんな大事件がありましたが、その後は二人の間にはさして問題もなく無事にさよならパーティーへ。当日は、店の閉店間際になると全員で「さよならの向こう側」の大合唱。今日で帰るタレントたちは皆、大泣きで収拾が付かない状態。そこにアテらしきピナイから肩を押されるようにして一人、一人、店やお客や、あと理解出来ないのですが、店のオーナーにお礼の挨拶が行われるのでした。
そして、いよいよダリアの挨拶の番が来たとき、不覚にも私の目には熱いものが・・・しかし次の瞬間、ダリアのコメントに凍りつくのでした。

「マスター、お客さん、みんなありがとう!私は今日フィリピンに帰りますが、もうタレントは最後です。今度日本に来るときは、結婚して来るんです。本当にありがとう!」と・・・・・
私はプロモーター時代を含め、こんな最後の挨拶をしたピナイを見た事がありませんでしたし、もちろん私だけではなく、店に居たすべての者がサプライズ状態。何が起きたのか?と思う間もなく私をステージに呼び「この人のアサワになるから!」ちょっと待ってよ、そんなの聞いてね~ぞ状態で、ふつう、こんな場面でこんな事したら店からもお客さんからもヒンシュクものでしょ!と思ってたら次の瞬間、割れんばかりの大拍手!!! そんなばかなと呆気に取られているとマスターみずから花束を用意されて又、サプライズ!な、なんなんだ、嘘だろう、本当かよと自分の置かれた立場を理解するまで数分かかったのです。

あとで分かったのですが、これはすべてダリアが仕組んだサプライズセレモニーだったのです。とはいえ、これでダリアの気持ちも良く理解したし、あとはフィリピンにいって結婚だなと思うのでした。

そんなこんなで、その日の夜はまるで私とダリアの婚約パーティーのようになってしまい、他のタレント達には悪い事したな~あと思うばかりでした。(この時点ではとても幸せ者でした。あの地獄のような結婚生活がなければ・・・)

そして店が閉店。その日は朝から仕事がありましたが、理解ある仕事場の社長が、成田まで送りに行くんだろうと特別に休みをくれたので、そそくさと成田へ向かう事に。そして、お決まりのお別れタイム。そこ此処には別れを惜しむカップルが多数見られましたが、中には複数のお客さんを空港まで来させ(と云うか、客の方が勝手に行くのですが)、本命以外の客からは金やおみやげ品をもらうお決まりの光景が、そこかしこで繰り広げられていました。

そして、非情にもタイムアップになり、ピナイたちは今の今まで繰り広げてきた事をすっかりと忘れるように(この時点でほとんどのピナイの心は家族の待つフィリピンなのです)。搭乗口へ長くもあり、楽しくもあり、悲しくもあった六ヶ月の滞在を終え、フィリピンでは到底稼げない大金を手にして(当時、人気のあるタレントは最高で200万円ぐらいは持ち帰っていました)。それって、月額にして33万円にもなるんですよね! それも、手取りですよ、ゲッ すごいの一言。

そして今、機上の人に。パアアラム ナ Japan!

ダリアを送った帰り道、雨も降っていないのに思わず車のワイパーを作動させる私!フロントグラスが濡れているのではなく、一滴の涙が目を曇らしているのでした。


それからの私は、ダリアが日本に居る間は給与の殆どをお店につぎ込んでいたので、仕事漬けの毎日(とはいえ、たまにはPパブには行ってましたが・・・笑)の生活で、結婚資金を貯めていましたし、それより最大の心配事はダリアの身体と子供の事でしたが、帰国二ヶ月後に新たな事件が起こるのです。
私は、心配な事もあり週一回はマニラ(ちなみに、ダリアの田舎はマニラから遠く友人のマニカとケソンシティにアパートを借りていた)に国際電話していましたが、子供が流産したとダリアはとても悲しみ涙していましたが、「子供は又作ればいいけど、イカウの身体が心配だよ」と慰める事しか日本にいる私には出来ませんでした。

が、しかしそんな心配とは裏腹に、ある日マニラのダリアに電話するとマニカが電話口に出て、ダリアは今は田舎に帰っているとの事。それ自体、想定内だったので、驚きもなく「シゲ、又電話するよ」と言って電話を切ろうとすると、マニカが驚愕の事実を口にし始めたのです。それは、「ダリアは悪いよ、だって子供を殺したんだから」「それにダリアには男がいるよ!」「おにいさん、やめたほうがいいよ」と。それを聞いた私は、マニカの一言よりダリアを信じたいという気持ちと(時としてピナイは訳もなく、有りもしない嘘をつくことがある)マニカの言うことが本当なら、なぜダリアは結婚が確実な今、自ら神様からの贈り物(ピナイは子供は神様からの贈り物と)の子供を殺さなくてはいけなかったのか?何が彼女をそうさせたのか?理解に苦しむのでした。

それから一週間後ダリアに、なぜ子供を殺したのかを尋ねる電話を入れる事に。そして・・・「クムスタ カ?」と私。すると「ヒンディ マブテ アコ!」との答え。以下二人のやりとりは、

 私・・・「なんで、元気ないの?」

ダリア・・・「カシ マルンコット アコ!」

 私・・・少し怒りながら「寂しくなったのは、イカウが悪いからでしょ!」

 すると、ダリア・・・「アコ悪くない、なんで、イカウ怒ってるの?」

 私・・・「当たり前でしょ、なんで、子供を殺したの?」

ダリア・・・「だれに、きいたの」「アコ、殺してなんかないよ」「アクシデントだよ、自分の子供だよ」「信じてよ!」それを言うと電話の向こう側では、嗚咽が私の心を責める様に、打つのでした。

私は考えた末、ダリアの云う事を信じよう、信じる事からはじまる事はあるのだからと、、、、、

「わかったよ!イカウの事信じるから、この話は終わりにしよう!」と云うことでこの事件は一応、一件落着の運びと成りましたが、されど、この一件を境にダリアの事をストレートに直視出来なくなる自分に気がつき始めるのでした。